【特別インタビュー】ELC代表 五味奈津子

2023年7月発行

オンラインミーティング形式で仲間と共に洋書を読み進めながら、英語のスキルアップを目指すEnglish Library Caféのブッククラブプログラム。五味奈津子さんが2023年1月に法人を立ち上げてその事業としてスタートさせて間もなく半年になる。従来の英会話教室とどこが違うのか、参加者がプログラムで得られるもの、English Library Caféが目指しているものとは? 代表の五味さん(以下Natsuko)に聞いた。

(聞き手:伊藤真理、以下Mari)

Mari:

仲間で1冊の洋書を読んで討論していくプログラムというと大学のゼミで経験した洋書輪読会のようなものを思い浮かべてしまうのですが、ズバリ、English Library Caféの提供するプログラムの特徴って何でしょう?

Natsuko:

English Library Caféで提供しているのは、洋書を読んで英語でディスカッションする、全て英語で進めていくプログラムです。英語の4技能「聞く(Listening)」「話す(Speaking)」「読む(Reading)」「書く(Writing)」を駆使してプログラムに参加することで、参加した人が自分自身の英語学習の課題に気づいたり、語学習得のモチベーションを上げたりする機会として利用してもらい、総合的な英語力を向上させることを目的としています。また、各プログラムで取り上げる本の内容に合わせてネイティブの専門家にファシリテーターを務めてもらっているので、本に書かれた内容だけでなく専門家からの作品やその背景について解説してもらえる点も他ではあまりないEnglish Library Caféプログラムの強みだと思います。

Mari:

これまで取り上げた本を教えて下さい。

Natsuko:

これまで取り上げたのは次の3冊です。

➀ノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のリチャード・セイラー教授とハーバード大学ロースクールのキャス・サンスティーン教授が書いた「Nudge」(邦訳「NUDGE 実践 行動経済学 完全版」)、②イギリス人作家ジョージ・オーウェルの古典的名作「Animal Farm」(邦訳「動物農場」)、③スタンフォード大学(心理学)のキャロル・S・ドゥエック教授のベストセラー「Mindset」(邦訳「マインドセット『やればできる!』の研究」)。

「Nudge」は2~3月の4週間(毎週月曜夜)、「Animal Farm」は3~4月の4週間(毎週火曜夜)、「Mindset」は5~6月の4週間毎週日曜夜で、誰でも参加できますが、社会人が参加できるよう、毎回20時からの1時間半に設定しています。ただ読むだけではなく、担当した部分のテーマや話題の英文要約を作り、参加者全員がアクセスできるオンラインドライブ内のファイルに記入して皆で閲覧できるようにしています。

7月には「You’re Not Listening」(by Kate Murphy、邦訳「LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる」)の4週間プログラム、7月~8月には「The Economic Weapon: The Rise of Sanctions as a Tool of Modern War」(by Nicholas Mulder、邦訳なし)の6週間プログラムを予定しています。

Mari:

参加者はどんな方たちですか?

Natsuko:

ほとんどの方が社会人で、20代から60代まで、様々な経験を持つ色々な立場の人が参加して下さっています。外資系企業で働いている人、英語の先生、海外在住経験があって帰国後も英語力を維持したいと考えている人、かと思うと出張や旅行以外に海外経験はないんだけど英語をなんとかモノにしたいという人もいて、本当にバラエティに富んでいます。コアメンバーともいえる男性は何度かの海外赴任を経験され定年後も外国人を対象に観光ガイドをしておられますし、オーストラリアで働いている20代の男性が参加してくれたこともあります。小さなお子さんのお世話をしながら時間をやりくりして取り組んでいるワーキングマザーも。多様な参加者がそれぞれ目的を持って積極的に参加して下さるので、様々な意見が飛び交い、それを聞いているだけでも興味深く勉強になります

Mari:

積極的な人ばかりが集まって全て英語でやりとりするプログラムだと、参加したいけれどついていけるかどうか、働いていて4週間のプログラム全てに参加するのは難しいと気後れする人もいそうですが、その辺りはどうですか?

Natsuko:

皆さん積極的ですが、同時にとてもオープンマインドな方ばかりなので、たとえSpeakingが上手でなくても皆さん気にせず温かく良い雰囲気でやり取りされています。仕事だけでなく家庭の事情で欠席される方も時々いますが、参加できない場合はこちらで動画提供をしてフォローしています。English Library CaféのプログラムはZoomのオンラインミーティング形式で運営しており、毎回皆さんの了解を取って内容を録画しているんです。参加者には毎回公開しているので、欠席した場合もどんな内容だったか動画を見て確認してもらえますし、参加した人には復習として使ってもらえると思います。

Mari:

話をちょっと戻して、プログラムのファシリテーターはネイティブの専門家とのことでしたが、どんな方たちですか?

Natsuko:

「Nudge」の時は、イギリス人のMichael Kruse(マイケル・クルズ、中京大学講師)が、「Animal Farm」ではカナダ人のIain Gallacher (イーエン・ギャラカー、名古屋外国語大学講師)がファシリテートしてくれました。詳細なバックグラウンドはCaféのHPを見ていただければと思いますが、マイケルは実験心理学や第二外国語としての英語教育に詳しいだけでなくエジプトで働いた経験やヒプノセラピストの一面も持ち、幅広い分野の知識と経験を持っている講師です。イーエンはカナダやイギリスの大学で歴史・地理学、英文学を学び、「呼吸をするように本を読む」と言われるくらいの人です。参加者からも、マイケルについては「エネルギッシュで経験豊かなファシリテーター」、イアンについては、「イアンさんの博識ぶりは、大学の歴史の授業さながらでした」といった声をいただいています。「Mindset」は関心ある分野でもあったので、私自身がファシリテーターを担当しました。

Mari:

わざわざネイティブの専門家にファシリテーターをお願いする狙いはなんでしょう?

Natsuko:

どんなに参加者が用意周到に準備しても、プログラムで取り上げる本の話題について語れる専門家がいないと、結局表面的な意見交換で終わってしまいます。本を一冊読むからには、その内容をしっかり理解し学んでもらいたいし、参加者同士の意見交換も専門家がファシリテートするからより意味のあるものになると考えています。プログラムでは毎回、その週の担当者となった参加者が、その週取り上げる範囲の話の要約とディスカッションテーマ(質問)を英文で書き、みんなが閲覧できるオンラインドライブ内のファイルに書き込んで提出することになっているのですが、それもファシリテーターに専門家の目でチェックしてもらっています。

Mari:

Natsukoさんもファシリテーターをすることのことですが、日本人でありながらほぼネイティブ、またマイケルさんやイーエンさんとは違う専門性を発揮できるのが強みと言えますよね。約10年のアメリカ生活では現地の学校・大学で学び、外国語習得の大変さを実感されている上に学問としても学んでおられます。帰国後も国立大学の大学院で言語学や英語教育を専攻された経験をお持ちですし、社会人として色々な仕事の経験をされていますし。

Natsuko:

そう言ってもらえるのは光栄です。私は父の仕事の都合で中学2年の時に家族と渡米し、カトリック系の中学高校を経てミシガン州立大学に進学し、言語学を主専攻、人類学とフランス語を副専攻として学びました。バイトしながら文字通り猛勉強をした時代です。ミシガン州立大を卒業して帰国、進学した筑波大学大学院では英語教育を学びました。修士号取得後に国内メーカーに就職し、海外戦略担当部門で4年働いた後、退職してEnglish Library Caféの前身となる英語教室を開きました。最初の会社とは別の企業でコンサルタント業も経験しています。ミシガン州立大学時代や日本での大学院時代の主なバイトも英語家庭教師や、英語科のTA、民間スクールの英語講師でしたし、私自身が英語力を身につけてきた経験も活かしつつ英語学習指導の経験もそれなりに積んできたと自負しています。

Mari:

その経験がEnglish Library Caféに生かされている訳ですね。

Natsuko:

そうです。ブログでも書いていますが(note「私が海外第の授業みたいなBook Club Programの企画に至ったわけ」)、私の英語力がグンと伸びたのはミシガン州立大学で学んだ4年間でした。学生寮の友人たちとの会話でも学ぶことはありましたが、よりアカデミックで論理的思考に裏打ちされた英語力を育んだのは、大学の授業についていくために毎日必死でやった勉強だったと確信しています。

専攻したのが言語学、人類学、フランス語でしたから、リーディング、ライティング、ディスカッションの量が他の専攻の学生と比べて桁違いに多くて、毎週1授業ごとに100ページ以上の文献を読み、授業中の討論に備えなければならなかったんです。中学からアメリカの学校で学んでいたとはいえ読み書きのスピードが遅くて、でも大学では英語が第二言語だなんて言い訳は通用しません。とにかく課題をこなしていくしかありませんでした。精読するのは無理だから要点を理解することを最優先に読み進め、そのために重要だと思う単語だけを調べました。内容がすんなりと理解できなかったり腑におちなかったりする部分は時間が許す限り何度も読み直しました。それでも分からなければ、授業中にチャンスを見つけて質問できるようメモしておきました。そういう毎日を無我夢中で繰り返しました。

Mari:

そういう「ガチな勉強」の経験ができる場を提供するのがEnglish Library Caféのプログラムだということですか?

Natsuko:

アメリカの大学の授業ほど厳しくはありませんが、近いと思います。English Library Caféが提供するのは従来の英会話のような語学レッスンではありません。1つの学問というと大袈裟かも知れませんが、ある分野のトピックスがまとまった本1冊を英語で学び追及していく過程の中で、英語の4技能のうち自分に不足しているのはどの部分かを気づいてもらい、限られた時間で効果的に習得するためにはどうしたらいいかを自らで考え見つけ出してもらいたいというのがプログラムの目的であり願いです。英語に限らず何か新しく習得しようとする時に必要なスキルですし、一見まどろっこしい回り道なように見えるかもしれませんが、実はそのやり方が英語学習でも一番効果的だと考えています

英語上級者が英語力を維持したい、さらに伸ばしたいという時にも、しっかりした内容の本を読んで専門家や仲間とディスカッションをしてみるというのはモチベーションを維持するのに気軽かつ効果的な取り組みなんじゃないでしょうか。私自身が帰国し社会人になって英語の学び直しや英語力の向上を望んだ時に感じたことでもあるんですね。「社会人が受講できる時間帯に、海外の授業のようなスタイルで、程よいプレッシャーや刺激を感じながら、単発で気軽に受講できるプログラムがあればいいのに」って。

また、語学学習で見落とされがちなことですが、語学学習を単なるスキルアップとして取り組んでも、人間としての中身、知識や経験がないとせっかく学んだ語学を生かすことはできません。たとえ英語を流暢に話せなくても、好奇心旺盛で自分の意見を持っている人、人間として魅力的な人の話はみんなが耳を傾けます。英語上級者こそ英語だけではなく人間力もレベルアップできるような学びが必要だという気がします。様々な分野の本を読んで討論していくEnglish Library Caféのプログラムはそういう意味でもよい学びの場だと思います。

Mari:

お話を聞いていてNatsukoさんの明るくフレンドリー、サービス精神旺盛な人柄もよく分かります。しっかり総合的な英語力を身に付けたい、伸ばしていきたいという人には魅力的なプログラムだと言えそうですねですね。

Natsuko:

マイケルやイーエンがファシリテーターのプログラムでも、私自身が楽しみながら参加しています。また、学生時代に英語の家庭教師をしていた頃から英語を教えるのはとても楽しくて、私にとっての天職だと思うので、今後もずっと英語教育に携わっていくつもりです。ですから私自身も学び続ける必要性を感じていますし、提供するプログラムの内容も少しずつでもブラッシュアップしていければと思っています。

Mari:

それでもやっぱり、他ではあまり見られない全て英語オンリーのプログラムですから、ついていけるかなと心配になったり、参加申し込みを躊躇したりする人もいると思います。

Natsuko:

学生時代は一生懸命勉強しましたが、私自身辛いだけというのはやはり嫌いですし、学習プロセスは楽しい方が良いと思っています。そうでなければ続きませんから。毎回良い雰囲気で進められるようにプログラム中は心がけています。なので、気楽に申し込んでもらいたいですね。よく言われることですが、日本人は間違うこと、失敗することを必要以上に気にしますが、たとえたどたどしい英語でうまく話せなくても、決して恥なんかじゃありません。トライ&エラーだと割り切って、失敗や間違いも成長していく上で必要な過程だと楽しめると学習もより早く進んで効率的です。それでも緊張しちゃうな、どうしようかなと思っている人には、とにかくやってみましょう、気軽にあたってくだけちゃいましょうよと声をかけたいですね。

それでも心配だと感じられる人は、30分のプライベート無料相談会をオンラインで実施しています。ご自身の英語レベルで参加が可能か、プログラムはどんな雰囲気で進むのか、宿題はどれくらいの量か等々お答えしますので、HPから遠慮なく声をかけて下さい。

                                                                                            止

伊藤真理(いとうまり):大学卒業後に記者として17年半働いた後、早期選択定年をして医学系大学院へ進学。公衆衛生学修士(専門職)、博士(保健学)、精神保健福祉士。現在は私立大学やシンクタンク等で非常勤研究員をしながらフリーライターとしても働いている。